2019年08月05日 17:52

発売後ひと月半で3刷を決めたNHKブックス「壱人両名――江戸日本の知られざる二重身分」は、身分への固定観念をひっくり返す歴史的事実を初めて正面から取り上げた本として、「記念碑」になる可能性がある。

江戸時代。村の百姓がとつぜん刀を差してサムライ姿で出勤。明らかにバレているけれど誰も「オイオイあんた百姓だろ」と突っ込まない。これは悪ふざけでも変装でもなく、常識的な慣習だった。一人の人間が百姓の名「何衛門」と侍の名「何兵衛」を併せ持つというこの慣習は当時、「壱人両名(いちにんりょうめい)」と呼ばれた。

著者は、無名の江戸時代人たちを生き生きと描いて、「身分」への固定観念をひっくり返す。史料に忠実に論じていながら親しみやすい文章で、ユーモアすら漂うのも魅力。裁判記録に残された言葉を現代語に置き換えるだけで、なぜか可笑しい。そこも読みどころだ。

壱人両名――江戸日本の知られざる二重身分」は発売中。定価1620円。